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錦繍

宮本輝『錦繍』を読みはじめてみたが、別れた夫婦の妻の側が思いがけない再会のあと手紙を書くという導入部の、その心の動きを追うだけでダメージがでかい。おれはつきあっていたとき、あのひともたしかにおれを好いてくれていたという確信(謎の自信)がある…

存在の耐えられない軽さ

1か月ほどまえからミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』をすこしずつ読んでいる。「究極の恋愛小説」とかいう惹句に鼻白むところがあって手にとらないままきた作品だけど、カーヴァーの評伝にエピグラフとして使われていた部分にピンとくるものがあ…

反魂の術

熊倉献「ブランクスペース」を2巻まで読む。西行法師みたいな話だと思ったら2巻の作中作で反魂の術に言及してた。海外文学への造詣も深そうなイメージで、もしかしたら#1で「ショートカッツ!」と言ってるのはレイモンド・カーヴァー意識かも。これは続きが…

もうひとつの世界

いましろたかし『未来人サイジョー』を読む。マンガを選ぶ際、年に一回参考に買っている「フリースタイル」50号(特集:THE BEST MANGA2022)に載ってて気になったのが理由。過去読んだいましろたかし作品にはあまりいい印象はないが、漫画家のアシスタントが…

青い眼がほしい

よきもの、よきこと、とされるものの像を目にすることが苦しくて、テレビを見るのがキツくなっている。トニ・モリスン『青い眼がほしい』のブリードラヴ一家が自分たちを「醜い」と思わされる仕組みを実感する。 もちろん、テレビ番組やCMの提示する、おそら…

ここは退屈迎えに来て

U-NEXTでの配信が終わるというツイートを見て、昨夜はあわててレナ・ダナム監督『タイニー・ファニチャー』を鑑賞。事前の期待ほど、目が覚めるような傑作とは思わなかったが、リーマンショック直後の大学卒業者が抱える閉塞感を描いてる面もあってみどころ…

誕生日の子どもたち

レイモンド・カーヴァーの短編を読み直していて、自分の読みがあきらかに学生のころと変わってきていることを実感する。この作家の持っている資質の、最良の部分に触れられるようになった気がする。それは自分の人生にも、それなりにいろいろあったからなの…

名詞一語文

トニ・モリスン『青い眼がほしい』を読みはじめた。 しかし、母親と〝言い争う″のは、たしかに子供のするべきことではない。わたしたちのほうから、おとなと話を始めることはない。わたしたちは、おとなの質問に答えさえすればいいのだから。(大社淑子訳『…

最後の扉は開けたままで

カポーティの短編集『夜の樹』を読んでいて、「最後の扉を閉めて」という作品にさしかかり、これがすごすぎて先に進めなくなった。田舎からニューヨークに出てきてそれなりにうまくやっていたであろうウォルターという男が、ほぼすべてを失うことが確定した…

不破の苦しみに触れる

「恋をするって人を分け隔てるという事じゃない」。これはよしながふみ『愛すべき娘たち』第3話のメインキャラクターである若林が、何度かの見合いを経て出会った、おそらくは初めて愛することができるかもしれなかった相手・不破との話を断ったあとに述べる…