僕が生まれた日の賛歌(reprise )

おれはなぜ自分の子孫を残したいと考えなかったのだろうか。いつからか、現在の日本で子どもを産み育てることについては相当な覚悟がいるよな、とは思っていたけれど、それはどこか他人事の話であり、自分の希望として子どもがほしいとかほしくないということを考えていたわけではなかった。一般論として、おそらくはいまより悪くなっていく世の中に新しい人間を送り出す責任を、重く考えるべきなのじゃないかと思っていた。自分がほしいとかほしくないとか、育てることができるとかできないとか、そういう意識は、いつからかあまりなかった。あのひとと真剣に将来を考えたいと思ったとき、たぶん初めて、そのことを自分の問題として引き受けた。そしてあのひととの子どもをもち、育てることを、具体的なものとして想像した。それは幸せな想像だった。でもわからないのは、あのひととの未来がなくなったと理解して以降、また自分が子どもをほしいのかどうかわからなくなったことだ。「子どもがほしくなった」のなら、それなりの危機感をもってそのために動かなければ
いけないのはわかっている。でも、漠然とだれかと自分の子どもがほしいのか、と考えたとき、ほしい、とも、ほしくない、とも思わないのだ。というか、なにも思わないのだ。ただ、あのひとがいないことが、寂しいだけたのだ。