だからせいいっぱい

自分の好きなもので自分を知ってもらいたいということを、おれは中学生のときからずっと求めていたのかもしれない。中1の同級生のMさんを好きになったときは、星新一の「鍵」を読んでほしくて『妄想銀行』を貸したら、「味ラジオ」がおもしろかった、という感想がかえってきて、最初のいっこしか読んでないじゃん! とがっかりしたのを覚えている。それで懲りたのか、大学時代以降おれは主に「自分とおなじものが好きな人」であるとわかっている人、にアプローチしていたように思う。あのひととの出会いかたはそうじゃなかったから、お互いが好きなものについて知っていくプロセスが、すごく楽しかった。それが大切な時間であることは当時もわかっていたつもりだったけれど、もっと大切にできた、するべきだった、と、いまは思う。