父の肖像

今朝は以前にあったかどうかすら思い出せないほどめずらしい経験をした。父親の夢を見たのだ。小一で両親が離婚して以来ずっと母親と暮らしてきたおれは、ものごころついてからも父親には一度も会わなかった。四年前くらいに父親は死んだ。
友人のなかに親の離婚を経験しているものは何人かいたから、いっしょに暮らしていないほうの親とある程度定期的に会うことがあるという話を聞き、完全に断絶しているパターンは意外にめずらしいのだなということにはある時期、気づいた。おれの両親の離婚は本人どうしの問題以上に父親の実家の問題だったから、まあそういうこともあるだろうとは思った。父が余命いくばくもないという知らせはかろうじてあったが、おれは会う必要を感じなかった。だから会わなかった。
それが間違っていたとは思わないのだけれど、父が死んでしばらくしてあのひとと出会い、家族になることを真剣に考えたとき、父親というもののひとつのありかたを見ておいたかどうかによっては、もしかしたら違う未来もあったのかなとすこしだけ思う。自分に流れている血について、あのひとにもうすこしだけ説得力のある話ができたかもしれないと、思うのだった。