思い出すことなど

外界からの情報を入力しつづけないとあのひとのことを考えてしまう。情報を入力してても、決まった道を歩いているときとか、自分にとってルーティーンになってしまっている作業だとあまり意味がなくて、あのひとのことが浮かんでくる。その意味でずっとあのひとのことが忘れられないでいるし、ずっと覚えているのだけれど、そんなふうに底流としてあるあのひとの姿が、なにかをきっかけとしてクリアに浮かび上がってくることがあって、そのことを「思い出す」と名指すのだな、と思った。ぐにゃぐにゃとした思考のなかの部分ではなく、表情や声といった具体的なものをともなったひとかたまりとしてのあのひとを思い出すことは、あのひとが自分のなかに残っているという意味ではうれしいことだが、あのひとのいない人生をどう生きていくかまだ決めかねているおれにとっては、きつい。