ものづくし

あのひとが好きだったものや、あのひとといっしょにいるときに目にしたものが、おそらくは幸せな記憶と強く結び付いているため、いまの自分のみじめさを強く感じさせるので、触れたくない。たとえばミスチルという文字列は、あのひとが好きだったミスチルのことを思い出させるだけでなく、「ライブに行ったことがない」というあのひとのために、次にツアーがあればオタク時代に身につけた技術でチケットを確保して喜ばせたい、と思ったことも思い出させる。そして星野源は、もうふたりの未来がないのかも、というデッドエンド感のなかであのひとが、友人と行ったという星野源のライブから帰ってきて「勇気をもらった」と言ったとき、それはどんな勇気なんだろう、この関係をなんとか進める勇気なんだろうか、それともおれと別れることを後押しするような勇気だろうか、あるいはおれとのこととはまったく関係のない勇気だろうか? と、思ったのに訊けなかったことを思い出させる。
あのひとと過ごした幸せな日々の記憶を大事にして生きたいと思う一方で、もう戻ってこない幸せを思い出すのはキツいという感情もある。こんな感情を抱えたまま生きているのは、実際非常にしんどい。